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2025.01.23
業界コラム
農林水産物の輸出に関するコラムシリーズの最終回である今回は、具体的にどの商品がどのように輸出されているのかを、農産物を主体に水産物も交えながら紹介したいと思います。
まずは農林水産物の全体感から見てみましょう。日本産の農林水産物の品質の高さを背景に、世界規模での日本食に対する興味と理解の拡大、インバウンドによる日本食機会の拡大により、農林水産物の輸出は毎年過去最大を更新している状況です。統計の出ている2023年もまた、輸出高全体で1兆4,541億円と過去最大を記録しました。
シリーズ初回でも登場した輸出高推移グラフですが、2022年、2023年の値が掲載されています。およそ10年前の2013年の輸出高と比較して264%up、農産物の内訳で見ると289%upです。
国内農業って、こんなに成長しています!?ちなみに、2023年輸出高のうち、農産物の占める割合は約62.3%。農林水産物の中では農産物が多くを占めているのです。それでは、農産物はそれほど生産量が増えているのでしょうか?農業総産出額の推移を以下に示します。
うーん・・・増えているといえば増えているのですが、微妙というか・・・
つまり、海外輸出高は10年で300%に迫る勢いで伸びていますが、総生産は横ばいちょっとプラス、ということになります。2つの統計を比べると、農林水産物関連ビジネスのなかで、いかに海外向け輸出が期待できる分野なのかがわかります。
もうひとつ、注目しておきたい点があります。輸出高推移の表において2022年から2023年にかけての伸びが鈍化している点についてです。こちらは、明確な原因があります。
ALPS(放射性物質除去装置)処理水の海洋放出に反発した中国をはじめとする諸外国の水産物輸入拒否が大きく影響しています。ALPS処理水の海洋放出は2023年8月24日に開始されました。
年間で見ると以下表の規模で輸出が減少しています。これは、8月24日以前の輸出統計も含みますから、それ以降の例えば12月単月で見ると下表のように主要な水産物輸出品目であるホタテはゼロになっています。
2022年から2023年にかけての農林水産物の輸出額鈍化は、この輸入禁止施策が大きく影響しています。ちなみに、2023年8月24日同日より始まった中国の日本産水産物輸入禁止措置は、約1年後の2024年9月20日に「化学的根拠に基づいて、徐々に基準に適合した水産物の輸入を再開する」と発表しました。
国際間パワーバランスの駆け引き材料となってしまった感もあるこの輸入禁止措置は、日本政府の「科学的根拠に基づく措置を」という交渉で、簡単に言えば撤廃されました。
言いたいのは、あまり科学的根拠に基づいていない、この輸入禁止措置がなければもっと輸出高は伸びていたと思われる、ということです。
むしろ、アフターコロナで世界的に人々の外出が活発になり、上半期だけで見れば輸出高の伸びはプラス9.6%、年間結果のプラス2.8%と比べるといかにこの輸入禁止措置が足を引っ張ったかがわかります。農林水産物の海外向け輸出ビジネスモデルにかげりが出てきたわけじゃありませんので、ご安心ください。
では、次に、品目の中で農産物にフォーカスしてみましょう。農林水産省は輸出高統計で農産物を5つのカテゴリに分類しています。「加工食品」「畜産品」「穀物等」「野菜・果実等」「その他農産物」の5つです。言葉だけではわかりにくいので2023年売上高グラフの構成で見てみましょう。
農林水産物の中で最も多くの割合を占めるのが農産物です。データが出ている最新統計の2023年で、農産物が占める割合は約62.7%。農林水産物海外輸出額の約3/2は農産物になります。
なかでも、野菜・果実などの青果物は、輸出重点品目としてもも、ぶどう、ながいも、かんしょ、りんご、かんきつ類、なし、かき、いちごなどが制定されている上、キャベツなどの野菜も輸出が盛んに行われています。まずは、青果物の輸出状況について見てみましょう。
農産物の輸出高は順調に増加しています。そのうち、青果物は2022年に過去最大の輸出高を記録しましたが、2023年は数量ベースで6.9万トン、金額ベースで4.8%と少し減少しました。
青果物は鮮度保持の性質上、あまり遠い国に輸出することができません。輸出先国別の割合は台湾42.2%、香港40.6%とこの2国で8割以上を占め、あとはシンガポール、タイ、米国と続きます。輸出高の多い台湾向けの減少原因のひとつとして、残留農薬の検出が上げられます。
これは、需要に対して輸出向けの青果物が揃わなかったため、国内向けのいちごなどを集めて輸出したところ、現地基準に適合しなかったなどの理由によります。いわば、需要が多くあって、外国向けでないものを出荷してしまったという失敗で、需要が低下したわけではありません。
日本の果実はずいぶん以前からひとつのブランドであり、農水省は日本産果実の輸出統一ブランドマーク「日本産果実マーク」を2008年から制定しています。近年は、ブランドマークの偽造まで登場し、QRコードでトレーサビリティ(追跡調査)まで行えるようになっています。
ともあれ、偽物が出てくるほどの価値が認められている青果物ですが、輸出のカギは各国ごとの植物検疫基準への対応と、輸送時の品質保持にあります。
このうち、検疫体制への対応は国が率先して行い、厳しすぎる規制に対しては交渉を行っています。また、国別に向けた農薬や栽培法、容器基準などの対応について助言や、証明書発行などもあわせて行っています。
流通体制の整備としては、鮮度保持フィルム、鮮度保持剤、CA(冷蔵・窒素ガス)コンテナ、効率輸送が対策としてあります。この分野はもりや産業の得意分野ですので、お困りごとはぜひお気軽にご相談ください。きっと、解決策があります。
農産物の中でも最も多くを占めるのが「加工食品」で約56.3%になります。加工食品とはアルコール飲料、ソース混合調味料、清涼飲料水、菓子、醤油、米菓、味噌ですが、なるほど大手企業が大々的に輸出してそうなものが多く見られますね。
ここで少し注目したいのが、調味料、醤油と米菓です。加工食品でいちばん大きな割合を占めるアルコール飲料が購買先である中国の景気後退や原酒不足などで減少する中、調味料、醤油、米菓は伸びています。
日本食文化である調味料、醤油、米菓のおいしさがインバウンドを通じて、欧米の人々に浸透しつつあると考えられます。さらにこの分野の牽引役である日本式カレーやマヨネーズは大企業製品ですが、ソース、醤油、味噌、米菓は特色のある中小企業も参入しています。
大企業のように支店や輸出ルートを持たなくてもインターネットを通じて海外販売が可能になったこともひとつの理由だと考えられます。これこそまさにDXですね。
このように、資本力を持つ大企業でなくても海外販売のチャンスはひろがっています。加工食品は日持ちするものが多い、というのも輸出ハードルを下げる要因になっています。
2023年最新統計での畜産品全体の輸出高は過去最高を更新しました。伸び率は4.2%。まずまずよく伸びているのですが、畜産物ごとに増減があります。畜産物はさらに「牛肉」「牛乳・乳製品」「鶏卵」「豚肉」「鶏肉」の5カテゴリーに分類されます。
「和牛」がブランドになっている牛肉は金額ベースでプラス11%、トン数ベースで13%と大きな伸びを見せています。主要輸出先への輸出量が全体として増加している中、特に台湾と香港において外食産業需要の回復が伸びました。アフターコロナにより台湾、香港での外食産業需要が増えたためです。
豚肉・鶏肉も香港をはじめとするアジアでの需要を中心に大きく伸びています。豚肉の輸出高はプラス14.9%、鶏肉の輸出高はプラス27.6%と大幅に需要が拡大しました。
一方、輸入高が減少したのが、牛乳・乳製品と鶏卵です。減少の原因は、主に脱脂粉乳の価格が世界的に下がり、日本産の価格が不利に働いたためです。実は、乳製品でいちばん輸出高が多いのは育児用粉乳、つまり粉ミルクなんですね。その他に乳製品の代表はアイスクリームなどの氷菓、チーズなどがありますが、こちらの輸出額は増えています。
乳製品は主な輸出先がほぼアジアで占められています。台湾、中国、香港、ベトナム、カンボジア、フィリピン、シンガポールなどの国々です。
鶏卵は輸出高でマイナス18.2%と大きく減少しましたが、これは国内での鳥インフルエンザ発生による輸出停止が大きく影響しています。生産量が鳥インフルで減ったため、国内需給のひっ迫があり輸出に回せなかったという事情もあります。また、輸出先での需要低下も見られたため、大きく減少しました。
分類:穀物類の主役は「米」です。2023年穀物類輸出高の伸びは6.5%ですが、米に関しては27.5%と大躍進です。日本米は世界的に見て価格が高く、逆に世界から日本に輸入する際には、世界の安い米と競争するために関税が設けられています。
端的に言えば、世界的に見て価格の高い米がなぜこんなに売れるのか。それはまず、世界各国での日本食レストラン需要が増大している理由が上げられます。「Sushiレストラン」の米は、やっぱり日本産でなくちゃいけません。
よく、訪日外国人客がインタビューで「海外の日本食レストランはとっても高い!」と言っています。そのような価格設定で成り立つ世界の日本食レストランが、本物志向として日本米を使っているのですね。
そしてもうひとつ、「コメ海外市場拡大戦略プロジェクト」による官民一体となった活動も奏功しています。こちらは、これまでに解説した輸出に関する団体の設立、書類関係のスムーズ化、JETROやJFOODOの調査・支援など多くの活動が基礎となっています。
2025年の今日も引き続き、農林水産省は輸出事業者及び産地の団体・法人を募集しています。もう、力を入れっぱなしの状態です。
その他の分類で伸びているのは、たばこ、お茶、切花などです。植木等は減少しました。それぞれの動向を以下に掲載します。まずは昨年比プラス42.2%と大幅な伸びを記録したたばこですが、こちらの品目は法律で全量がJTでの買い取りとなっていますので、今回コラムの主旨には合わないためコメントを割愛します。
緑茶は、健康志向や日本食への関心の高まりを背景に、抹茶を含む粉末茶の輸出額が増大し、2023年の輸出高はプラス33.3%、大きな伸びとなり、輸出高は過去最高となりました。
植木は、盆栽も含みますが輸出先はベトナムと中国で8割以上を占めます。中国は5割弱の輸出高を占めるのですが、人気の高いイヌマキ植木の輸出が検疫の事情により停止されているため輸出額は減少しています。
イヌマキは、中国では羅漢松と呼ばれ、幸福・繁栄を呼ぶ樹と言われ、庭木や生垣に多く使われ、輸出用植木類の主力品目となっています。中国側の懸念は指定する害虫の国内侵入で、こちらについては農林水産省が詳細な情報を発信しています。
一方、切花は前年プラス12.8%と堅調な伸び。主な輸出先はアジア各国で主力はこちらも中国です。中国向け輸出額は7.8億円と令和元年から約3倍増。主な輸出品目はスイートピー、グロリオサなどの花のほか、アセビなどの切り枝も人気があります。鮮度が必要とされる切花の輸出が伸びている背景には、物流のスピードアップ、品質の向上が一役買っていると考えられます。
海外から見れば、円安は、これまでよりも安価で日本クオリティの産品が仕入れられる状況です。当然、いっそう魅力的に映りますし、輸出が伸長している大きな要因となっています。
輸出している日本側から見れば、価格競争力という面で有利に働きますし、昨今よく見られる値上げも、国内向け流通と比較して行いやすいという実情もあるでしょう。それらの要素もかみ合って、農林水産物の輸出高はグングン伸びています。現在約1.5兆、2025年には2兆、2030年には5兆という政府目標を達成するには、これぐらいトントン拍子で伸びていかなくてはなりません。
とは言え、加工食品の原料を海外に頼っている品目では、円安は逆風ですし、化学肥料は多くは輸入に頼っています。意外かもしれませんが、製鉄メーカーの副産物には肥料である硫安(硫化アンモニウム)があり、JAなどを通じて国内流通しています。
JAでは、肥料高騰に備えて、いきなりの肥料切り替えは作物への影響が大きいため、硫安を使用していくことを呼びかけています。そして、第一次産業はソリューションだけでは成り立ちません。
そこには労働力が必要であり、高品質を維持するための努力があります。生産がどんどん拡大する見込みがあっても高齢者が圧倒的な割合を占めている現在は、若い人たちへ農産物輸出はビジネスとして魅力あるビジネスであることを伝えていくことも必要になります。
輸出である以上、そこには必ず物流が介在します。このコラムシリーズでもいくつか「物流のスピード化・高品質化」の話題も出てきました。
私たち、もりや産業もまた、農林水産物の輸出支援を全力で行っていきたいと考えています。今回も輸出に役立ちそうな項目を列記しておきますので、関心のある製品についてぜひごらんください。
パレット貨物の荷崩れや果物の箱潰れなど
輸送中のトラブルを防ぐ、環境に優しい梱包資材。
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野菜・果物・生花に使える鮮度保持剤。
パレット貨物の荷崩れ防止に使える、
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輸出に適した紙製パレット。
パレット貨物の水濡れ防止や機器を
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私には、若者から壮年期の人が、全力で人生をかけてでもやる価値のあるビジネスだと感じます。これまでの生産者には不足しがちだったITや自動化の力を携えながら、ビジネスとしての農林水産物生産を行い、大きな視点ではいずれ「日本を救う」というメソッドにぜひ参加して頂ければと思います。
もりや産業は、物流のプロフェッショナルとして、IT、自動化、ノウハウのあらゆる面で何でもお答えいたします。ぜひお気軽にご連絡ください。