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2025.06.01
業界コラム
トラックの脱輪事故。最近はあまりニュースに出てこない気がします。さて、実際のところはどうでしょう。
統計は令和4年までですが・・・増えてますね。発生件数が増えても、その割には人身事故件数が少ないため、ニュースに取り上げられる機会が減っているのでしょうか。
それとも、いよいよ日常的な事故として関心が薄まってしまったのでしょうか。しかし、大型トラックのタイヤ重量は60㎏+鉄製ホイール40㎏で合計約100㎏。これがもし時速60㎞/hで外れて迫ってきたら・・・「日常的な事故」ではとても済みません。トラック脱輪が「タイヤミサイル」と言われるのも納得です。
グラフで見るように、事実、脱輪事故は増えています。ではなぜ、そんなにトラックの台数は増えていないのになぜ増え続けるのでしょう?そして、トラックの脱輪事故には、はっきりとした傾向があります。それは「脱輪は左後輪が突出して多い」「冬に多い」「タイヤ交換後2ヶ月以内が約8割」というものです。
この現象がなぜ起こるかを考えることは、事故防止につながります。自社で事故を起こさないためにも、いま一度、トラック脱輪のメカニズムについて考えてみませんか。今回は、その原因から掘り下げて解説します。
前述のグラフの事故件数ボトムは、2011年(平成23年)の11件です。そこを境に事故件数はどんどん伸び、ついに2022年(令和4年)には140件となり、11年間の間に1,272%増!(約13倍)となってしまいました。
このボトム前後に原因となるような変化があったと考えるのが自然ですが、実は2010年に、大型車両のホイールボルト・ナットの締め付け方式がJIS方式からISO方式へと変更されています。先に述べておきますが、この変更が原因だとはっきりしたわけではありません。しかし、多くの人々がこの関連性について関心を持っています。
まずはJIS方式とISO方式の違いについて解説します。JIS方式とISO方式最大の相違は、JIS方式では車両左側のホイールボルト・ナットは逆ねじ(左に回すと締まる)、ISO方式では正ねじ(右締め)になっているという点です。その他にもいくつかありますので、以下の表にまとめてみました。
その他の違いとしては、JIS方式の座金部分はナットが食い込むような形状の球面座で、ISOは平面座。ナット形状もJISでは一部球状、ISOではワッシャが付いたような形状になります。では、この違いにどのような意味があるのかについて次に解説します。
JIS方式の「車両左側が逆ねじ」である理由は、ブレーキ時などタイヤに強い慣性力がかかる状態で、「ねじが締まっていく」方向であることです。仮に、ナットにレンチがくっついて回転している(ありえませんが)と考えた場合、ブレーキをかけたとき、逆ねじならば、そのレンチは慣性力によりねじを締め込みます。
逆に、正ねじならばねじを緩める方向に力が働きます。実際にはレンチはありませんが、ナットそのものの慣性力は存在します。また、発進時や加速時の力(ブレーキとは逆方向の力)は徐々に(緩やかに)加わるため、大きく影響しません。JIS方式で「車両左側が逆ねじ」である理由は、この点にあります。
これまでの理由を考えるとJIS方式のほうがよいと思われますが、ではなぜ、JIS方式からISO方式に切り替えられたのでしょうか。それにはいくつか理由がありますので、以下に解説します。
まず第一の理由として、「ISOが世界標準だから」という理由があります。ISO方式を採用しているトラックは95%とも言われ、JIS方式のほうが圧倒的にマイノリティーです。つまり、日本製トラックを海外に輸出すると、ほとんどのユーザーとって「変なホイール」となり、とても扱いづらい=売れない製品になってしまいます。
「ええっと、どっち回しだったっけ。」ねじ締めのときに一定の頻度で思うことですが、JIS方式ではさらにややこしくなります。JIS方式では点検も「ゆるんで・・・いや、締まってるのか?」など勘違いや見落としも出てきやすくなります。さらに、右ねじの在庫、左ねじの在庫それぞれを持つ必要も出てきます。ISO方式はこの点は単純で整備性もよく、在庫も少なくてすみます。
JIS方式では、リアダブルタイヤにおいて、内側はインナーナットを使用して締め付け、外側はアウターナットを使用します。ISO方式では内外2本のホイールをまとめてひと組のボルト・ナットで締め付けます。
なるほど、ISO方式には多くのメリットがあります。今度はJIS方式がややこしい方法にも思えてきます。世界の95%が採用するISO方式。それでは、そんなに多くの国と人々の社会で、ISO方式のウィークポイントである「車両左側のナット緩み」が発生しているのでしょうか。
それなら、とっくに大問題となっているはずですが、そのような現象は起きていません。実は、もうひとつの要素が加わった場合に、ISO方式でナット緩みが発生すると考えられています。それは、「車両左側通行」です。
左側通行かつ左折の場合、カーブがきつくなり、左後輪により大きな応力が加わります。排水などのため、断面がカマボコ型となっている道路形状もさらに車両左側に負荷をかけます。
右側通行の場合は逆に、右折の場合の右後輪に応力がかかります。道路断面形状も車両右側に負担をかけますが、日本と異なるのは「ねじが締まる方向に応力がかかる」点です。
ISO方式は多くの国で採用されていますが、採用国の7割は車両右側通行です。日本では、「左折時の左後輪に応力がかかる」ところに、「ブレーキ時にナットが緩む方向に慣性力が働く」ISO方式の特性が重なり、日本独特の「左後輪が脱輪する」現象が発生すると考えられます。
冒頭で掲出したタイヤ脱輪の傾向、「冬に多い」「タイヤ交換後2ヶ月以内が約8割」にはJIS/ISO方式とは異なる原因があると考えられます。それは、タイヤ交換時の正しい取り扱い、点検、メンテナンスに起因する脱落です。この考えをさらに補佐するデータを2点紹介します。
ひとつは、タイヤ脱輪はどの地域に多く見られるかを示すグラフで、その結果は「関東以北で多く見られる」ことを示しています。もうひとつのグラフは、誰がタイヤを交換したかを示すグラフで、約半数が「大型車ユーザー自身によるタイヤ交換」となっています。
「関東以北」「冬に多い」という現象は、雪のためタイヤ交換の頻度が高いことを示しています。「タイヤ交換後2ヶ月以内の脱輪が約8割」「大型車ユーザー自身による交換」は、タイヤ交換後の増し締め不足、取り付け時の不備が原因として考えられます。
降雪地域でタイヤ交換の頻度が高くなれば、タイヤ交換をしなくてもすむ地域に比べ、装着後の増し締めの必要性も高まります。約50~100kmほど走行すると、ホイールとナットの接面がなじみ、わずかに緩みが発生し始めます。この時に増し締めをしなければ、さまざまな外部応力や振動により少しずつ緩みはひろがります。
また、どれかのボルトが先に緩むと、掛かる力にかたよりができ、それが回転の偏心などにつながり、ボルトが折れてしまうこともあります。
国交省は昨今のタイヤ脱輪対策として、2023年10月より、タイヤ脱着・増し締め作業の管理記録簿作成を義務づけました。違反は行政処分の対象となります。以下に要旨を掲載します。
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道交法「道路運送車両法の一部を改正する法律等の施行に伴う整備管理者制度の運用について」改正
整備管理者の業務及び役割に以下を明記。(ア)大型車(車両総重量8トン以上、または乗車定員30人以上の自動車)を保有する場合のタイヤ脱着作業や増し締め等の保守管理を実施すること、または整備工場等に実施させること。(イ)点検整備記録簿、タイヤ脱着時の作業管理表(大型車)、その他の記録簿を管理すること。
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大型車はタイヤ交換時に記録簿をつけ、増し締めの記録もつけなさい、ということです。このように国交省は点検、特に増し締めについて重要視していますが、データが示しているように、こちらも脱輪原因のひとつと考えられます。
これまで、脱輪事故の原因を解説してきましたが、それは、事故をおこさないためのポイントを押さえることにもつながります。簡単に整理してみましょう。
長く解説しましたが、ものすごく凝縮するとこれだけです。しかし、「緩み」は目視ではほとんどわかりませんし、運行前点検を必要以上に行うことは業務に支障が出ます。そこで、もりや産業がご提案したいのが、タイヤ脱輪防止用具「セフティホイールNeo」です。
「セフティホイールNeo」は以下写真のように2つのナットを連結することで、緩みを防止するアイテムです。これまでにも、2つのナットを細目の樹脂で連結してその形状から緩みを見つける「インジケーター」はありましたが、緩みそのものを防止するものではありませんでした。「セフティホイールNeo」はナット同士をしっかり連結することで緩みそのものを防止します。
使い方はカンタンで、増し締め完了時に写真のようにはめ込むだけ。まずはナットそれぞれにギザギザのついた固定パーツをしっかりとはめ込み、その上でメガネ形状の本体で連結すれば完成です。連結したら、内側の固定パーツと本体の間にマーカーで線を引き、ズレが発生したら一目でわかるようにしておきましょう。
マーカー線がずれている、セフティホイール自体がなくなっている時は、ナット緩みが考えられますのでトルクレンチで規定の締め付けを行ってください。とてもわかりやすい指標ですから、運行前点検もごく短時間ですみます。点検時は特に左後ろのホイールに注目してください。セフティホイールNeoは、ISO、新ISO方式で装着可能です。
JIS方式からISO方式への変更が、脱輪の原因か否かについて多くの議論があります。私は原因の一部であると考えていますが、国交省は今のところ、JIS方式に戻す動きを見せていません。
たしかに、国交省や自動車輸送の関連団体が推奨するように、取り付け時や増し締め時の手法・点検をしっかりと行えば脱輪事故は減るでしょう。しかし、それは脱輪メカニズムの根本的な解決とは別のものです。
構造的なメカニズムとしての原因、メンテナンスなど人的な原因の2つが並立して存在し、どちらか一方が決定的な原因ではないと思われます。
一方、いざ脱輪事故が起こった場合、責任を持つのはドライバーであり、運行会社になります。事故の被害者を出さないため、そしてあなた自身や職場を守るために、ぜひ「セフティホイールNeo」をご検討ください。いちばん大切なことは脱輪事故を起こさないことに尽きます。