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2024.01.30

業界コラム

万一に備えて知っておくべき債権回収の流れとは

 仕事をしたのに支払ってくれない・・・そういった場面にはもちろん逢いたくありませんが、それでも万一、そのような局面になってしまったら・・・いまは現実感のない問題かもしれませんが、それは入金がされないという事実となってある日突然やってきます。

 あなたの企業でも絶対にないことではありません。むしろ情報が進化した分、特定の企業に利潤が集中し、一方で相継ぐ値上げの中でコロナ貸付金の償還が行われて苦しむ企業も増えています。不透明なこの時代、知識だけでも備えておくのはいかがでしょうか。

重い内容ですが、今回は債権回収の話題でコラムを進めてまいります。

支払いがされない――まずは落ち着いて状況を把握しましょう。

 入金予定日を過ぎても予定していた金額が振り込まれない。そのことに気づいた経理スタッフからあなたにその旨が伝えられます。さて、ここからどのような行動をとれば正解なのか。ほとんど、もしくは全く経験のない出来事にとまどうことになりますが、まずは落ち着いて支払先に連絡をとりましょう。

 単なる経理フローのミスだったり、郵送で送った請求書が届いていないということだってあります。くれぐれも興奮して怒鳴り込んだりしないようにしましょう。相手方の単純ミスに対してそのような怒りかたをすれば、気持ち上のしこりが残ってしまうかもしれません。今後の取引にも影を落とします。ここで、しなければならないのは、より具体的な状況把握、つまり、まずは連絡です。

連絡の方法は、以下の3つが考えられます。

・電話

 いちばん状況がよくわかるのは担当者と直接会話できることですが、たとえ具体的な話ができなくても、疎遠にされる、いると思うけれど電話に出ない、折り返しの返事がない、なども大切な状況把握のひとつです。

 深刻な事態に備えて電話した日付、時間、状況などをこまかくメモしておきましょう。さらに具体的な状況把握として面談がありますが、普通は電話してから会いに行きますのでここでは省きます。もちろん、面談できるなら、それがいちばん望ましい方法です。

・郵送

 いきなり督促状を送りつけるのはよい手と思いませんが、郵送で事情を聞くという方法もあります。郵送は情報を得るまでに時間がかかるのがネックですが、書面が証拠として残るというメリットがあります。

 再三の連絡にも支払いがない、過去にも未払いがあった、支払いに関して懸念があったなどの事情があるならば、正式な文書で内容証明郵便を使って督促状を送るのもこちら側の本気度を示すひとつの方法です。

 内容証明郵便での郵送は送付日時、相手方の受取状況、内容の記録が残りますから「言った、言わない」を避けて要求を明瞭化させることができ、この点が電話にないメリットになります。また、後述しますが、内容証明郵便で督促状を送る行動は「消滅時効の完成」を猶予する効果もあります。

・メール、通信アプリ

 いちばん手軽なのですが、メールの場合は無視されたり、見てなかったという言い訳も予想されます。手軽なのはいいのですが、確実性が乏しい状況把握方法です。のらりくらりとした返事に対応しているうちに、いつのまにか時間が経過してしまうことにもなりかねません。

 いちばんのお勧めは、まず電話連絡して、可能ならば面談して話し合い、それでもうまくいかないならば内容証明郵便にて督促状を送付する、というフローです。メールは状況を見ながら補助的に使うとよいでしょう。何でもそうですが、初動は大切ですね。

相手方に支払う意思がない(なさそう)な場合は専門家に相談を

 電話や郵送で督促をしても支払う意思が見られない、支払うと言うものの期限が設定されない、といった場合は、いよいよ内容証明郵便を送付して催告することになります。

 しかし、その前に弁護士など専門家に依頼することも視野に入れて検討しましょう。この状況に至っては、支払いが行われるか、裁判へもつれ込むかの可能性は五分五分です。

 専門家(弁護士)の名前と職業を付した内容証明郵便で支払ってくれればそれでよし、そうでなければ引き続き支払督促や訴訟といった手続きに入ることになりますが、法律家なしで支払督促手続きや訴訟を起こすことはむずかしいものです。

 でも、弁護士費用がいったいいくらかかるのか不安だと思います。弁護士費用は多くの場合、相談料+着手金+成功報酬+実費で構成されます。相談料は1時間1万円が相場です。具体的な着手金の相場は以下の表をご覧ください。

 また、成功報酬は訴訟金額の15%~20%が相場・目安です。実費は郵便切手代や証明書発行料などの費用です。その他、弁護士費用とは別に裁判所申立費用(いわゆる裁判費用)なども必要になりますが、その額は100万円の場合で1万円です。以外と少ないと感じる人も多いでしょう。

 訴訟額が少額なら、受任してくれる弁護士を捜すのに時間がかかるかもしれませんし、結果的に時間と労力に対する回収効率は良くないかもしれません。この時点で考えなければならないことは、自分の状況を把握し、かかる費用と時間を予測して、どうしたいのかを決めることです。

 次の法的ステップに進むと決めたのなら、弁護士費用がかかることも、訴訟へと進んでもやり抜くことを覚悟して、しっかりと主張していきましょう。

訴訟の前のステップ、裁判所が発行する「支払督促」の活用も

 「訴訟」はよく聞きますが、裁判所の「支払督促」はあまり耳にしない言葉です。支払督促とは、簡易裁判所に支払ってもらえない旨を申し立て、裁判所の書記官が申立人の申し立てのみに基づいて支払いを督促する略式手続きです。実はこの支払督促、全簡易裁判所の民事事件新受件数のうち約30%もの割合を占めています。

 支払督促を行うと、書記官は相手方の言い分を聞くことなく、審査を経て支払督促の書類を郵送します。裁判所から「特別送達」という特別な郵送でいかめしい文書が直接相手方本人に手渡しされるため、かなりプレッシャーがかかります。

 また、支払いをしなければ強制執行が行われ、異議申し立てがあれば民事訴訟へ移行する旨が内容文に示されていますから、支払いを促して早期解決を図ることが期待できます。

 支払督促は訴訟に至る前に、相手方の支払いによって早期解決することを目的とした制度です。もちろん、相手方が異議申し立てを行えば、支払督促の効力は失われ、民事訴訟に移行することになります。

いよいよ最後は民事訴訟

 支払督促を行っても、相手が異議申し立てを行い、支払いに応じない場合はいよいよ最後の手段である民事訴訟に移行します。この段階まで来ると、もう弁護士さんにお任せして成り行きを見守るしかない、というのが実情です。

 相手が出廷しなければ勝訴となり、弁護士さんに強制執行を行ってもらう手続きに進みます。相手に言い分があれば裁判で支払金額を含めて白黒をつけてもらうことになるでしょう。解決までには時間もエネルギーも使いますが、やりはじめたのならしっかりと最後までやり抜く気持ちが大切です。

まとめ

 実は、いちばん心理的負担がかかるのは、弁護士に相談・依頼し、受任してもらうまでになります。弁護士が受任した後は、プロに任せて進捗を聞き、弁護士からの報告・提案に回答し、進めてもらうことになりますから、心理的負担は減るでしょう。それでも、解決までには時間がかかりますし、その間の入金はなく、弁護士着手金などの費用も発生するため、経済的な負荷にも耐えなくてはなりません。

 しかし、これだけは言えます。具体的に弁護士に依頼することで確実な一歩が踏み出せます。たとえ解決はまだ先でも、重くのしかかっていた悩みも少しは軽減されるでしょう。先を見据えて、まずしっかりと決意し、忍耐強くじっくりと取り組みましょう。